派遣のお仕事| 派遣のお仕事に関する類義語辞典です。
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有名とは?

[ 140] 28 有 名
[引用サイト]  http://mseek.nendo.net/event/big04/1063651650.html

□そう残してプツリと切れた携帯を手に、紺野は眉間にほんのり皺を寄せた。表示は非通知。いやがらせか、と紺野はため息をついた。呼び出し音に反応してついうっかり出てしまった。もう一度深くため息をつき、視線を上げる。ブラインドの隙間から太陽はもう見えなかったが、その名残がかろうじて控え室を明るくしている。高橋は隅っこにある一人掛けのソファで黙々と本を読んでいて、そばでは雑誌をめくっていた小川が紺野の顔を覗いていた。首をかしげた小川を見返し、なんか悪戯みたい、と肩をすくめて少し微笑んだ。「気をつけなよ。最近皆にかかってきてるみたいだから。非通知のでしょ?」小川が鹿爪らしい顔で尋ねてくる。紺野はそう、と言いながら、小川につられ真面目な顔を作った。「皆怖いから出てないって言ってたけど。―――ねえ、愛ちゃん」高橋は無言でこくりと頷いた。
今日は午後から雑誌の撮影。その後、生放送の収録。そのリハーサルが近づいているというのに、新垣の撮影がまだ終わっていない。控え室には新垣を除いた5期の3人だけで、先に撮影を終えた6期も、別の日に撮影済みの先輩メンバーもとっくにテレビ局に入っていた。撮影中、マネージャーが焦っているのがありありと見て取れた。皆疲れているのか控え室は妙に静かで、かすかな秒針の音と時折思い出したようにページをめくる音が聞こえるだけ。そこに突然、ゴトン、と大きな音が響いた。小川と高橋がビクッと身体を強張らせ、音の方向に目を遣ると、椅子から腰を上げた紺野が2人の視線に縮こまっていた。立ち上がった拍子に、膝に乗せていた携帯が床に転げ落ちている。紺野はごめん、と呟くと、慌てて携帯を拾った。
「ちょっと、トイレ」そう告げ、控え室の出入り口へ向かう。小川が振り向いて、急ぎなよ、と忠告した。廊下には誰もいなかった。トイレは向こうだったっけ、と廊下の奥を見つめた途端、視界がぐらりと揺れた気がして、思わず壁に片手をついた。―――やっぱり疲れてる。紺野は目頭をぎゅっと押した。
◇「あれっ?」再び控え室のドアを開けると、紺野は素っ頓狂な声を上げた。部屋の中が真っ暗で、人の気配がない。思いがけない事態に紺野は慌てて電気を点けてみるが、テーブルの上に積まれていた4人分の荷物もきれいさっぱりなくなっていた。そんなに遅かっただろうか、と時計を見る。大して時間は経っていなかった。大体居場所がわかってるんだから、一声かけてくれればいいのに。紺野は頬を膨らませながら、廊下を駈けた。スタジオのあるビルを出てみるが、移動用の車もマネージャーの姿もない。置いて行かれた? ―――まさか。不安にかられて夕闇の濃くなった景色を再度見渡しても、やはり誰の姿もない。紺野は携帯を開くと、マネージャーの番号を呼び出した。
すぐに繋がった。「はい?」「あの、紺野です。私―――」「はあ?」声が冷たい。紺野は胃が痛くなるのを感じた。「私、まだ撮影スタジオにいるんですけど」マネージャーのため息が紺野の胃をいよいよ痛ませる。ごめんなさい、と言おうとしたところで、鋭い声がそれを遮った。「悪戯はやめて下さい。通報しますよ」
唐突に切られた携帯を見つめ、彼女は呆然と立ち尽くした。ふと子犬のように首を振り、我に返る。何かがおかしい。何度か電話をかけ直したが、二度とマネージャーに繋がることはなかった。
彼女がテレビ局を目指し賑やかな通りに入った頃には、もう生放送は終わりに近づいている時間だった。それなのに携帯はうんともすんとも言わない。グルグル思考を巡らせて足早に歩いていると、コンビニのポスターが目に入った。新曲のポスター。今日の生放送で歌うはずの。―――私、いないのに。彼女は半ば泣きそうになりながら大判のポスターを見つめた。
そして。持っていた携帯を落としそうになった。向かって左、最上段。そこにあるはずの彼女の姿はなく、見たこともない少女が、メンバーに混じってポーズをとっている。他のメンバーの顔を順に確認するが、自分の姿はどこにもない。混乱する頭を抱えて、コンビニに走りこんだ。TV誌の連載記事を開くと、紺野あさ美の文字が躍る。しかしそこに並ぶスナップに写るのは、彼女が知っている紺野あさ美ではなかった。あのポスターの少女が、小川と楽しげに笑っている。自分がいない娘。自分じゃない紺野あさ美。非通知の電話の言葉が頭をよぎる。彼女は携帯を握り締めると店を飛び出し、夜の街を走り出した。
■受話器を乱暴に置く音が部屋に響いた。紺野が何事かと振り向くと、母親が不快な顔をしているのが目に入った。「どうしたの?」「電話でね、『お母さん、あさ美だよ』って言うのよ。気味が悪い」「悪戯だよぉ」「あんた、気をつけなさいよ。有名人なんだから」「うん」母親は、ああ怖いと大袈裟に震えながら、隣の部屋へ消えた。
紺野はその後ろ姿を見届けると、カーテンの隙間から窓の外を一瞥する。携帯を手に、息を切らせてこちらを見上げる少女の姿が常夜灯に照らし出された。「お風呂沸いたわよ」母親が呼ぶ。「はあい」紺野はもう一度窓の外を見下ろし、そしてニヤリと笑った。

 

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